【兵庫県自転車事故】
あの高額賠償命令9,521万円の内訳とは
「どういう計算をしたら9,521万円という数字が出てくるんじゃ?
まずは判決の中身を見てみるぞい。」
平成25年、兵庫県で発生した自転車事故の裁判で、加害者の母親に9,521万円の賠償判決が下されました。自転車事故でなぜこのような高額な支払い命令が下されるのか、賠償の内訳を調べてみました。
- 【事故の概要】
- 小学五年生の男子が夜間、自転車での帰宅途中に歩行中の女性(62)と下り坂で正面衝突。自転車のライトは点灯していましたが、男子は距離10mになるまで女性に気付かず、時速20〜30キロで衝突。女性は頭を強く打ち、そのまま意識が戻らず植物状態となりました。
- 【判決の概要】
- 男子の唯一の親権者である母親に9,521万円の支払い命令。 内訳は、被害者女性に対し約3,500万円、女性との保険契約に基づき女性に保険金を支払っていた保険会社に対し約6,000万円(支払った保険金とほぼ同額)。
- Q1:「子どもが起こした事故なのに、親が支払うの?」
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A:今回のケースでは、事故を起こした男子には責任能力がないと判断されたため、保護者の母親が損害賠償責任を負うことになったんじゃ。
未成年者が他人に損害を与えたときの損害賠償責任については、民法第712条、714条に規定されています。
第712条には、未成年者に責任能力がない場合、損害賠償の責任を負わないこと、そして第714条には、そのときその未成年者の監督義務者(=保護者)が代わりに損害賠償責任を負うと定められています。
- Q2:「子どもが事故を起こしたら、必ず親が責任を追うのかしら?」
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A:親が責任を問われないケースももちろんある。但し、親が監督義務を果たしており、それでも避けられない事故だった場合に限るんじゃ。
民法第714条には但し書きがあり、 以下の場合には損害賠償責任を負わずに済むとされています。
1.監督義務者がきちんとその監督義務を果たしていたとき
2.監督業務を果たしていたとしても避けられない事故だったとき
本件でも男子の母親は「日常的に自転車の走行方法について指導し、走行時にヘルメットを着用するようにも教えていた」と主張しましたが、裁判所は母親が監督義務を果たしていたと認めませんでした。
男子が事故を起こしたときの走り方や状態に問題があり、また事故の際には男子がヘルメット着用を忘れていたことから、母親が男子に自転車の運転に関する十分な指導や注意をしていたとは言えない、と判断されたのです。
このように、保護者が未成年者への監督義務を尽くしたと裁判で証明することは、非常に難しいとされています。子どもに安全運転するよう声をかけたり、ヘルメット着用を促す程度では、監督義務を尽くしたと認めてもらえないのが現状です。
- Q3:「どうしてこんなにお高いのかしら?」
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A:重い後遺症で被害者が今後働けなくなってしまい、さらに介護が必要になったからという理由が大きいようじゃ。
本件では、裁判所は合計約9,800万円の損害を認定しました。治療費、慰謝料、逸失利益(事故が無ければ得らえたと考えられる収入)、将来の介護費用などがその内訳です。
【本件の損害賠償金の内訳】
治療費 | 約450万円 | |
---|---|---|
休業損害 | 約140万円 | |
慰謝料 | 傷害慰謝料 | 300万円 |
後遺障害慰謝料 | 2800万円 | |
逸失利益 | 約2200万円 | |
将来の介護費用 | 約3940万円 | |
合計 | 約9800万円 |
ここから事故によって支給されることになった障害基礎年金を差し引き、合計9,521万円の支払い命令が下ることになりました。本件では、被害者に重篤な障害が残り、長期の介護が避けられない状態となったことで、非常に高額な賠償が認められることとなりました。
- Q4:「保険会社にも損害賠償を支払うの?」
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A:今回の事件のように、加害者の行為によって保険会社が被害者に支払いをする場合、賠償金を被害者ではなく保険会社に支払わなければならないこともあるんじゃ。
本件で裁判所は保護者の母親に、被害者女性へ保険金を支払っていた保険会社に対しても約6,000万円の支払いを行うよう命じました。被害者が加入していた保険会社に賠償金を払うというのはおかしいように感じるかもしれません。
しかし、健康保険法第57条には、今回のように保険金の給付が第三者の行為を原因として起こった場合には、その給付額を上限として、被害者が本来加害者に対して請求できた権利を保険会社が代わりに取得できると定められています。
つまり、このような加害者のいる事故の際には、保険会社は賠償金を一時的に建て替える立場になるということです(この仕組みによって、保険に入っていた被害者は保険会社からすみやかに給付を受け取ることができます)。これを一般に「損害賠償請求権の代位取得」と呼びます。
保険会社と自分でやりとりしないといけないこともあるんだね。
プロである保険会社相手の交渉は、骨が折れそうじゃわい。
自転車保険に入っておれば、こういった交渉や手続き面でもサポートを受けられるから安心じゃのう。
【補足】今回の判決での加害者ー被害者ー保険会社間の関係図
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