こんにちは! えなりかずみです!
前回は、交通事故の損害賠償額のうち、物損と財産的損害についてご説明いたしました。
交通事故の損害賠償額の内訳は、前回みたとおり、次のようになっています。
- ●物損
- ●財産的損害
- ○積極損害
- ・医療費関係
- ・診断書費用、その他
- ○消極損害
- ・休業損害
- ・後遺障害逸失利益
- ・事故がなければ得られた逸失利益
- ○積極損害
- ●精神的損害
- ○入通院に対する慰謝料
- ○後遺症に対する慰謝料
- ○死亡に対する慰謝料
連載最後となる今回は、残された精神的損害、いわゆる慰謝料についてご説明いたします。
目次(クリックでスクロール)
精神的損害
そもそも、精神的損害とは何なのでしょうか?
損害賠償請求における損害とは、だれかの権利または法律上保護された利益が侵害されたとき、その侵害があった場合となかった場合との差を意味すると理解されています。
しかし、前回みたような財産的な損害ではなく、精神的な損害の場合はどうでしょうか?
まず、交通事故で発生した損害について加害者に慰謝料を請求できる根拠は民法709条および民法710条にあります。
民法709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。民法710条
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
精神的損害は710条にある「財産以外の損害」にあたるのですね。
ただ、事故があった場合となかった場合の精神的な差、つまり、事故によって生まれた被害者の怒りや悲しみ、恐怖心、あるいは事故の後遺症に悩む精神的苦痛を、事故がなかった場合と比べて計り、更にその差をお金に直すことができるでしょうか?
実際には、その差を金銭的に評価することは不可能です。
とはいえ、それでは被害者が救済されるため、そして加害者が金銭という形で謝罪の意思を示すための基準がないことになってしまいます。そこで、やはりこれもこれまでに事例を積み重ねていく中で、法律または実務上一定の基準が設けられてきました。
ただ、わたしたちにとっては難しいことに、この交通事故における精神的損害額の算定基準が実は数種類あるのです。
なぜ基準がいくつもあるのでしょうか? それは、損害賠償手続の中のそれぞれの段階で適用される基準が異なることによります。
損害賠償手続の各段階
損害賠償手続きには、次の各段階があります。
- 自賠責保険の適用
- 交渉段階での任意保険の適用
- ADR(裁判外紛争解決手続)
- 裁判
損害額の算定基準は、下に行くほど高額となっていきます。事故が発生し、慰謝料について加害者側と交渉したのち、「この額では納得できない!」というときに次の手続に進んでいくので、基準が高額となっていくわけですね。
各段階についてもう少し詳しく見ていくと、次のようになります。
自賠責保険の適用
自動車やバイク、原動機付自転車が加害者となった場合には、強制加入が義務づけられている自賠責保険が適用されます。
自賠責保険は被害者の最低限度の損害補填を図ることを目的とした公的な制度です。あくまで最低限度の補償であるため、他の算定基準に比べて低い金額となっていますが、加害者の支払い能力に関わらず補償が行われるため、被害者保護においては最も重要な制度といえます。
自賠責保険による慰謝料の支払い金額の上限は、以下のように定められています。
- 死亡本人の慰謝料……350万円
- 遺族の慰謝料……750万円
- 後遺障害による損害の慰謝料
- 介護を要する後遺障害……随時介護の場合 1,333万円/常時介護の場合 1,800万円
- その他の後遺障害……32万(第14級)~1,300万円(第1級)
- 傷害による損害の慰謝料……対象日数1日につき4,200円(対象日数は実治療日数その他を勘案する)
この上限の範囲内で、実際の支払金額が決定されます。詳細は平成13年12月21日金融庁国土交通省告示第1号に示された支払基準に記載されています。
交渉段階での任意保険の適用
加害者が任意保険に加入している場合、被害者は自賠責保険の支払基準を超える金額を任意保険会社に請求することができます。この金額は任意保険会社の各会社ごとの内部基準によって決まっています。
この基準金額は、自賠責保険よりも高額ですが、裁判基準に比べれば少額となっています。
ADR(裁判外紛争解決手続)
ADRとはAlternative Dispute Resolutionの略で、裁判によらない紛争解決手続のことを指します。簡単に言ってしまえば、裁判所の代わりに公正な第三者に紛争解決のために入ってもらい、和解の手助けや仲裁を行ってもらう制度です。
裁判に訴えることのデメリットとして、
- 手続きが煩雑で定型的
- 解決までに時間とお金がかかる
- 事故について知られたくない情報が知られてしまう
といったことが挙げられますが、ADRはこれらのデメリットを解消・緩和した手続になっています。紛争当事者の両方が合意すれば、この手続を利用することができます。
ADRには大きく分けて「和解の仲介」と「仲裁」の2つがあります。前者は公正な第三者に和解の手助けをしてもらうもので、強制力まではありません。後者は裁判官の代わりに第三者に判断をしてもらうもので、強制力があり、また一度仲裁判断が出ると、不服申立てや改めて裁判に訴えることはできなくなります。
このADRにおいては、裁判と同じ支払基準が用いられるのが基本となっていますが、場合によりそれよりも低い金額となることもあります。
参考:
ADR(裁判外紛争解決手続)の紹介_国民生活センター
示談成立のお手伝い|日弁連交通事故相談センター
裁判
ここまでの交渉で和解に至らなければ、最後は裁判に訴えることになります。
損害賠償費用の支払基準について裁判所は訴訟における基準を設けてはいませんが、実務上、「弁護士基準」と呼ばれる支払基準が用いられています。この基準は、これまでの交通事故裁判の判例の傾向を基準としてまとめた通称『青本』・『赤い本』に基づくものです(それぞれ日弁連交通事故相談センター本部と日弁連交通事故センター東京支部が発行しています)。
詳細は『青本』・『赤い本』をご参照いただきたいのですが、上に書いた自賠責保険と比較しやすいようまとめると、『赤い本』による弁護士基準は次のようになっています。
- 死亡の慰謝料(本人+遺族)……2,800万円(被害者が一家の経済的支柱の場合)
- 後遺障害による損害の慰謝料
- 後遺障害……110万(第14級)~2,800万円(第1級)
- 傷害による損害の慰謝料……対象日数1日につきおよそ9,300円(通院)/17,000円(入院)(対象日数は実治療日数その他を勘案する)
※自賠責保険では別表第1の第1級、第2級と、別表第2の第1級、第2級が分けられていますが、『青本』・『赤い本』では区別されていません。
※植物状態など、重い後遺症が残った被害者の家族には、本人の慰謝料以外にも別途慰謝料請求権が認められています。
もしも被害者・加害者になってしまったら
以上、交通事故の精神的損害についての損害賠償についてみてきました。財産的損害と異なり、慰謝料は算定基準によって大きく金額が変わってしまうことがご理解いただけたのではないかと思います。
具体的にどんな損害で慰謝料がいくらになるのかを覚えておく必要はありません。ただ、その算出基準がひとつでなく、事故のあとにどのような手続きを取っていくかで慰謝料の額が大きく変わる可能性があることは覚えておいて損はないでしょう。
もしもあなたやあなたの家族が交通事故の被害者になってしまったら
相手方の保険会社が提示した慰謝料に納得できないときは、ADRや裁判に訴えることができます。実際に訴えずとも、示談の場で相手方の保険会社の示す和解案を鵜呑みにせず、「裁判になればこんな慰謝料になるはずですよ」と主張することができます。
もしもあなたが交通事故の加害者になってしまったら
「そんな額払えません」で相手は納得してくれるでしょうか? 裁判になり、あなたの支払い能力を超える判決が出てしまえば、財産の差し押さえといった処分が課されることにもなります。
以上、4回にわたって、自転車事故の損害賠償における過失割合という考え方についてお伝えしてきました。おおまかなまとめではありますが、自転車を利用するにあたって、社会的にどのような責任があると考えられているのか、そこにどれくらいのリスクが考えられるのかをみることができたのではないかと思います。
自転車は手軽な交通手段ですが、もしものときに、あなたやあなたの家族がどれくらいのリスクを負うことになるのか。知らなければ、それは「思いもしなかった」リスクになってしまいます。
そこにどんな可能性があるのか、事前に知っておくことで、大きなリスクにあらかじめ備えることができるのです。
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